―― 40歳を過ぎると ――

 幼なじみが歯の痛みと頭痛、肩こりを訴えて私の所に来院した。歯並びも良く、歯磨きもけっこう行き届いている。しかし上の顎の7番目の歯がグラグラ揺れ、周りの歯肉が赤く腫れていた。いわゆる歯周病である。歯磨きも教えられたように一生懸命行い、真面目な生活をしているのに、何故我々は40歳を過ぎると、歯周病という病魔におそわれるのだろうか。

 当然前号でお話ししたように、中高年になるとリンパ球の数が若い頃に較べかなり少なくなり、基本的に菌に対する抵抗力が低くなって来ているのは確かである。だが歯の種類によって、高齢になってもけっこうしっかり残っている歯種3番(犬歯)と、比較的入れ歯になり易い歯種6番7番(大臼歯、奥歯)があることから、全身的な抵抗力の低下の上にさらに局所の場の問題がからんでいることがうかがえる。

 我々は厚紙に穴を開ける時千枚通しを使うが、もし千枚通しの先が鋭くなく鈍く丸くなっていたら、なかなか穴は開かないし、開けるためにかなりの力を加えることとなるであろう。40歳を過ぎると、歯の咬む面はかなり咬耗、摩耗を受け、すり減り平坦な面になっている。先の鈍になった千枚通しと同じで、平坦になった歯では、うどんとかごはんのように柔らかい食物は食べ易いが、すこし固い物では咬み切れず、それを咬むためにはかなりの咬合力を必要とする。さらに平坦な歯では噛む力が歯を横へぐらつかせる力(側方力)へとなり易く、歯に受けるダメージが大きい。土の中に杭を打ち込み、杭を横にグラグラさせると、土が周りに押しやられすり鉢状になるように、歯も側方力を受けると、歯の根を支えている骨がすり鉢状に吸収を起こし、その隙間に細菌の侵入を許すことになる。深く入った菌は歯ブラシでは除けず、いっ気に炎症を起こし腫れ上がる。

 我々中年は毎日一生懸命働き奥歯がすり減って平坦になっているのも気が付かず、突如歯周病におそ
われる。それでも働き尽くめの我々中年は、歯が悪くなるのは年のせいだと、痛いのもがまんして頑張らなければならない。しかしそれはグラグラになった奥歯を抜いて“年寄り”の象徴である“入れ歯”の道へのターニングポイントでもある。

 ところで、冒頭の幼なじみの歯であるが、グラグラの原因は明々白々であるので、すり減った歯を 削合し、若い時の歯の形態に修正した。その結果歯の揺れも止まり、そのまま抜かずに使っている。