―― 奥 歯 ――

 奥歯は前歯よりも大きく、臼のようなかっこうをしている。歯の根は前歯が1本なのに対し奥歯は2本ないし3本である。だから奥歯は根がふん張っているぶん前歯よりも強く、食物をすりつぶす様な横から加わる力にも耐える。その点前歯は根が1本のため咬むという縦からの力には抵抗するが、磨りつぶすという横からの力には弱い。えてして前歯はその間に隙間が出たり、前歯が前の方に傾いて来て出っ歯になったりし易い。

 力には強い奥歯ではあるが、細菌に対しては根を2~3本 持つがために逆に弱くなる。つまり歯周病は歯と歯肉との隙間への細菌の侵入による感染症だと1刊で述べたが、根が複数あり、複雑な形態をしているために、細菌の住居となり易いため、弱くなる。例えるなら、子供の足を洗ってあげる時、親である我々は指と指の間、そして指の付け根の所を1つづつ、片足4ヶ所、手なりタオルなりを入れて磨いてやります。ところが親でも手を抜いた時や、本人にまかせた時など、回りをぬるっと洗うだけで、指の間まで洗いません。すると風呂に入ったのに指の間は黒くきたなく、くさい臭いがして来ます。
それと同様、根を複数持っている奥歯は根と根の付け根の所に細菌が侵入し易く、また今まで通りの歯磨き法をしていたのでは、そのまたの所まで歯ブラシが行き届かなく、そこが細菌の住居になりがちなのです。そのため、いつもは細菌の繁殖力と体の抵抗力が平衡に保たれていても、体の調子を崩した時など体力が落ちると、根の股の所に住みついていた細菌が急に元気になり、歯肉を腫らしたりします。

 その点では1本しか根を持たない前歯は単純な形態で、細菌の住居になる股がありませんので、管理が比較的楽です。そのため奥歯の歯周病治療は、複数ある根の隙間を大きくして、股の付け根をなくしたり、複数ある根の一部を除去し前歯と同じような単純な形態に修正したりして、細菌の住居となる所をなくします。すでに皆様お気付きのことと思いますが、それでは奥歯が前歯の様になり、磨りつぶす力に耐えられないのではないかと懸念されていると思います。そこで付け根の股を取り去った奥歯は、咬み合わせを調整したり、またとなりの歯と連結の冠を作ったりして、咬合の力を分散させ、その歯に強い力が集中しない様な処置を行います。

 奥歯の治療の概要は、根は前歯の様な単純な格好にし、かつ咬合力の分散と調和を作ることになります。