―― 何故歯肉が退ける ――

 歯肉が少し退けた初期の状態、歯と歯の間の歯肉が退け、その間につま楊枝が楽に入る中程度の状態、そして歯の根が見えるまで歯肉が退けた重度の状態の3段階に分けてお話ししましょう。

 初期の状態は歯磨きのやり過ぎによって生じます。何事も至適な程度という物がありますが、歯科医院に行くと良く歯を磨きなさいと言われるため、過度にやり過ぎる場合があります。磨いた後さっぱりして満足感が得られると言うので、硬い毛の歯ブラシで、歯磨剤をたっぷり付けて、ゴシゴシ音をたてて、日に3回しっかり磨きますと、相当に硬い歯の表面でも削れて、窪みを作りますし、歯肉も相当削られ退いてきます。歯表面は再生能力はありませんので、そのまま削られ続け、窪みが生じるのですが、 歯肉は再生能力がありますから、また元の高さに戻ります。しかし戻るよりも過度に磨きますと歯肉は下にさがって来ます。そして歯肉が引いた分、歯の根が表に現れ、冷たい水を口に含むと、しみるという知覚過敏の状態になります。また歯ブラシの毛がその歯の窪みに触ったとたん、ピリッという電気的な痛みが走るという状態になります。

 中等度の状態、つまり歯間部が透けて、隙間ができる状態は歯周病が原因で起こります。歯と歯の間はなかなか歯ブラシの毛先が届かない所で、歯垢が溜まり易い所です。そのため歯間部の歯肉から炎症が生じ、その歯肉のすぐ下にある歯槽骨に吸収が生じ、そのために裏打をなくした歯肉が退けてしまうことになります。歯槽骨は歯根を囲んでぐるっとあるのですが、歯間部は特に炎症が起き易いという場のために、特に歯間部の歯槽骨がまずなくなり、歯間部の歯肉が去り、隙間が開いて来る結果になります。歯の隙間に物が詰まるとか、歯の間から空気が漏れて喋りづらいとかの症状になります。

 重度の状態つまり歯根が見えるまで、歯根の回りのぐるりの歯肉が退けた状態は、咬み合わせが原因で起こります。手のまた足の骨も適度の運動は筋肉が骨を引張り、骨が添加され強くなって行くのですが、過度の力が加わった場合、しかもその回りに炎症がある場合は骨は吸収して行きます。つまり普通の食物を咬む力程度では問題はないのですが、過度の力つまり食い縛り、歯軋り等の強い力、もしくは普通の咬む力でも回りに歯がなく、歯列が途切れている様な場合、咬む力が歯を横へ動かす様な力になっている場合は、歯根の回りの歯槽骨を吸収させるようになります。さらにその周辺に歯垢がたまっていて、歯肉が炎症を起こしていると、さらに骨の吸収は進みます。歯根の回りの歯槽骨が吸収され低くなってしまうと、裏打ちのなくなった歯肉が退けて、歯根が露出される様になります。

 そうなると歯を支えている歯肉や歯槽骨が少しになりますので、歯がぐらぐら動く様になり、また咬んでも歯が逃げてしまい、沢庵等筋のある物が咬めなくなります。