―― それはどの様な時起きる ――

「歳はとりたくないね、歯はガタガタになるし」これは診療中に患者様から良く聞くことばです。何故とし半ばになると歯周病が起こるのでしょうか。この基本的な疑問を考えて見ましょう。

 まず歯周病は基本的には感染症です。つまり細菌が体の中に入って来た時の、体の方の防御反応とか炎症反応です。歯周病においては細菌は口腔常在菌が集落を堆積した後その下部に生ずる菌であり、炎症反応とは歯肉が赤くなったり、膿を持って歯肉が腫れたり、歯を支えている組織を溶かすため歯がグラグラしたりするということです。

 生体は細菌の侵入に対してそれを阻止しようとする何重もの防御機構を持っています。例えるなら防御機構の太い腕っ節で細菌の頭を抑えつけているかっこうです。いつもはこの様な状態で生体と細菌が均衡を保っていますが、何らかの原因でこの防御機構が弱くなると、例えば生体が病気をおこして体力が落ちたとか、年齢が高くなりリンパ球等の防御する細胞の数が少なくなったりその働きが落ちたりすると、すなわち抑えつけていた防御機構の太い腕っ節が弱くなると、頭を抑えられていた細菌が元気になり、生体深くまで容易に侵入し、組織を破壊しながら炎症の場がより深い所に移って来ます。

 ではだれでも歳をとると、防御機構が弱くなるのだから歯周病になるのかと言うと、否である。歯周病になる人とならない人がある。何故なのでしょう。それではここで参考に、防御機構が元気な若い人でかつ歯周病で歯が抜ける人を見てみましょう。

a. 歯は毎日磨いてはいても、歯肉をマッサージしない人。
 歯はきれいでも歯の根元と歯肉との境が磨けてない人は歯周病になります。そして近年の様に柔らかい食品が多い食生活では、適度なマッサージが歯肉を元気にします。

b. 歯並びが乱れている人。
 これは歯並びが悪いと全て歯周病になるということではありません。それがために歯が磨きづらかったり、また磨けない所が生じたりするということです。そして歯肉のマッサージも過度にマッサージされ過ぎたり、またほとんどされない所が出ることに依ります。さらに歯並びが乱れていると咬み合わせが全部の歯でなされないで、一部の歯だけに集中する傾向があることに依ります。

c. 野球選手の様に無意識のうちに強大な力で咬みしめる人。
 全てではありませんが、プロ野球選手は奥歯がボロボロの人が多いようです。強力な咬合力に耐えられる様な構造に歯周組織は作られてはいますが、それが過度に頻発して起こる様だと、耐えきれなくなります。それも自分で意識している時は、歯の根とそれを植えている骨との間に神経の末端があり、強い力が加わり過ぎると反射的に咬む筋肉を緩めるフィードバック作用が働きます。しかし起きている時でも無我夢中でくいしばるとか、就寝中無意識で歯ぎしりしたり、くいしばったりを頻回しますと、歯周組織を破壊します。

a.~c.は若くして防御機構が元気な人でも歯周病が起こる人達です。逆にとし半ばで防御機構が少し弱くなった人でも、それはゼロではないのですから、a.~c.が改善されれば、歯周病で歯がガタガタになるのは防げるのです。