―― 歯石について ――

 胆石、尿管結石、膀胱結石、そして腎結石の様にからだの内臓や管に主にはカルシウムが硬く固まり、石の様な状態になったものを結石(けっせき)と言います。同様に歯の表面に出来た結石を歯石と言います。結石は剥離した上皮や細菌など、何らかの核となる物質が引き金となり、それに周囲の体液中の例えばコレステロール、尿酸、カルシウム等が付着し、次第に形を大きくして行き、しまいには周囲組織を圧迫したり、また、表面が粗造なため細菌の住み家となったりして、障害を引き起こす様になります。歯石には2種類あります。歯の表面とそれに付着している歯肉との間に溝があり、それをポケットと言いますが、そのポケットの外にある歯石を縁上歯石(歯肉辺縁の縁の上と言う意味)そしてポケットの中にあるものを縁下歯石(歯肉辺縁の下)と言います。

 縁上歯石は食べ物のカスや歯垢が核になり、それに唾液中のカルシウムが沈着し石灰化され形成されます。だから唾液が出る部位 ― 口の中に2ヶ所あり、下の前歯の内側そして上の奥歯の外側 ― では縁上歯石が付き易くなります。一方縁下歯石はポケット内の歯肉剥離上皮やポケット内の歯垢が核になり、ポケット内に湧き出る体液 ― 血液由来の血清やリンパ液 ― 中のカルシウムが沈着し、作られます。だから唾液の出口とは無関係にどの歯でも同様に作られる可能性があります。そしてそれら2種類の歯石が成長して行くと、合体し区別が付かなく塊となります。

 胆石を患ったことのある方はお分かりだと思いますが、相当な痛みがあります。胆嚢炎を合併し、仙痛発作、発熱、黄疸を伴います。これは膀胱結石も同様、結石が閉塞された臓器内で起こるからです。歯石の場合、縁上歯石は体の組織外 ― 体外に解放されている口腔内 ― に出来る結石ですので症状はあまり大きくありません。せいぜい歯石がたまって見た目が悪くなるとか、大きくなると歯肉を押し下げ、歯の根が露出するとかです。症状が大きく問題となるのは体組織の中 ― ポケット内 ― にある縁下歯石です。歯肉がぷくっと腫れて膿を持ったり、咬むと痛かったり、歯がぐらぐらして来るのはこの歯石が原因になって起こります。どうしても腫れが止まらず歯の動揺が大きくなり、止むなく歯を抜くと、歯の根にこの縁下歯石が付いていて、それが原因で炎症を引き起こしていたことに良く遭遇します。

 結石の治療は、膀胱結石は小さく紛糾し尿として洗い流すとか、胆石は外科的に採るとか、いずれも除去することが主となります。歯石の場合も口腔という体外に表われた部位ですので、比較的容易に除去する処置が行われます。歯石が付き易い人と付きにくい人がいます。血清pH(ペーハー)がアルカリ性に傾いていたり、血清Ca(カルシウム)値が高いと結石し易い傾向にあるため、臓器の結石の場合薬でpHやCa値をコントロールして予防につとめることがありますが、歯石の場合体質の方は手を加えずとも、歯石の元となる核 ― 歯垢― を作らないようにすること ― 歯肉マッサージ ― が最良の予防法になります。