―― 歯肉からの出血 ――

 歯磨きをすると歯ブラシが赤くなる。朝目醒めると枕の赤い涎に気が付く。といったことがあります。おおかたは歯肉からの出血が原因しています。歯肉の出血には、歯肉の外傷そして歯肉の炎症が関係しています。

 歯ブラシの毛が硬かったり、歯ブラシの柄が歯肉に当たったりして、歯肉に傷を創ってしまった時は、外傷による出血です。この場合は部分的に限定されますし、ほとんどは痛みに自分で気が付きます。それとは異なり部位がどこかはっきりせず、また痛みもないのに出血する場合があります。これは歯肉の炎症が原因しています。この炎症による出血は歯肉の外側表面から出ているのではなく、歯と歯肉で形成されているポケットの内側上皮からの出血です。

 一般的に粘膜とは言え、上皮から直接出血する事はありません。やはり上皮の欠落した部位(つまり潰瘍)から出血します。ですがポケットの内側にめくれ込んだ円縁上皮の潰瘍ですのでほとんど潰瘍の存在には気が付きません。歯ブラシ等の刺激が加わった時の出血で気が付くぐらいです。痛みをほとんど伴わないので放っておくと、口腔中の歯肉全体に及ぶことがあり、その潰瘍の総面積は名刺大に達する場合もあります。その様になると外側の歯肉も赤く変色し、また口臭が生ずるようになります。この時期は潰瘍からの自然出血が唾液に混ざり、枕を赤く染めることもあります。潰瘍は細菌の侵入がさらに大きくなると痛みを伴い、発熱が起き、いわゆる感染症の状態となります。

 なぜ歯肉の内縁上皮に欠落が起きるのでしょう。それは縁下歯石が原因しています。前回の結石の項で述べました様に、ポケット内は結石(この場合は歯石)が起き易い場所です。歯石が形成されたまま放っておくと、そこが細菌の住み家となり、次第に内縁上皮の上皮間の結合がゆるんで、上皮の欠落が起きるようになり、潰瘍を形成します。ですから治療法は縁下歯石を除去することです。縁下歯石を取り除いた後、しばらく安静にしていると、円縁上皮は再製されて、出血のない歯肉に戻ります。

 予防法は縁下歯石を作らない様、歯ブラシで歯肉のマッサージを適切に行うことです。また縁上歯石も含めて、蓄積した縁下歯石を定期的に歯科医院で除去してもらうと良いでしょう。